ガス代の高騰や処理速度の低下など、イーサリアムが抱えるスケーラビリティの問題を解決するレイヤー2ソリューション、Polygon/MATICが注目を集めています。この記事では、レイヤー2ソリューションにとどまらないPolygon/MATICの特長や、実際に活用されている事例などを解説します。
Polygon/MATICとは
アプリケーションの開発・構築プラットフォームとして成長を続けるイーサリアムですが、本来のキャパシティを超えるほどの急激なユーザー増加のために、トランザクションの処理速度の遅延が生じ、ガス代(手数料)が高騰するというスケーラビリティの問題が深刻になっています。
そんなイーサリアムの抱える問題を解決するために開発されたプロジェクトが、Polygonです。
Polygonはイーサリアムのレイヤー2ソリューションであり、またイーサリアムと互換性のあるブロックチェーンネットワークを構築・接続するためのフレームワークです。
レイヤー2ソリューション
ブロックチェーン技術は複数のレイヤーに分かれて開発されており、Polygonはイーサリアムのレイヤー2(セカンドレイヤー)上に構築されたレイヤー2ソリューションのひとつです。メインチェーンであるイーサリアムのパフォーマンスを向上させるため、イーサリアムの取引の一部をセカンドレイヤー上のPolygonで実行して、イーサリアムの負担を軽減します。そうすることによって、処理速度を上げて手数料を下げることができます。実際の数値で見ると、イーサリアムのトランザクション数が毎秒10~15件であるのに対し、Polygonが処理できる数は毎秒6,000~7,000件にものぼります。それでいて平均的な取引手数料は0.00002ドルと非常に低く抑えられています。
メインチェーンの負担を軽減するほかにも、セカンドレイヤーには有用性があります。メインチェーンでのシステム変更などはセカンドレイヤーに影響を及ぼしますが、セカンドレイヤーに何らかの変更を加えても、メインチェーンが許可しない限り、その変化の影響はメインチェーンには及びません。したがって、システムの変更などを検討したい場合、メインチェーンに影響を及ぼすことなくセカンドレイヤー上で実験を行うことができます。
イーサリアム互換のブロックチェーンネットワークのフレームワーク
またPolygonはイーサリアムのセカンドレイヤーでありながらも独自のコンセンサスアルゴリズム(PoS、プルーフ・オブ・ステーク)を持ち、独自のトークンであるMATICを発行しているので、イーサリアム互換のブロックチェーンネットワークを構築するためのフレームワークとしても機能しています。
Polygon/MATICの歴史
Polygonは、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するためのプロジェクトとして2017年にスタートし、開発当時の名称はMaticでした。Maticの創業チームは、インドのブロックチェーンコミュニティで活動していたJaynti Kanani氏、Sandeep Nailwal氏、Anurag Arjun氏の3人で、のちにセルビアのMihailo Bjelic氏が運営チームに加わりました。
Maticは、この4人を中心として世界中の協力者が参加する分散型チームで開発がすすめられ、2019年4月には暗号資産取引所最大手のバイナンスでIEO(Initial Exchange Offering、※)による資金調達に成功し、2020年6月、メインネットにローンチしました。
(※IEO:ICO(Initial Coin Offering)と同じく、新規プロジェクトの資金調達のために新しくトークンを作成し取引する仕組みですが、ICOと違い、プロジェクトを取引所が審査して選ばれた銘柄のみに取引が認められるので、信頼度が高いことや、参加しやすいなどのメリットがあります。)
イーサリアムのスケーラビリティ問題を解消するためのプロジェクトとして開発が始まったMaticですが、イーサリアムのスケーリング・ソリューションにとどまらず、イーサリアム互換ブロックチェーンのネットワークを目指すため、2021年2月、プロジェクトの名称をこれまでのMaticからPolygonへ改名し、リブランディングしました。2021年3月には、米最大手暗号資産取引所コインベースPro(上級者向けの取引プラットフォーム)に上場しました。
Polygon/MATICが活用されているプロジェクト例
高速かつ低コストな取引を実現したことにより、これまでイーサリアムでのスケーラビリティ問題を抱えていたDefi(分散型金融)やゲーム、NFT関連のDapps(分散型アプリケーション)が、次々とPolygonの利用を始めています。ここでは代表的なものをご紹介します。
Sushiswap(スシスワップ)
イーサリアムエコシステム上で最も人気のあるDEX(Decentralized Exchang、分散型取引所)です。スケーラビリティ問題を避けるため、2021年5月にPolygonとの提携を発表し、Polygonでもイーサリムとの互換性を保ったまま利用できるようになりました。
Aave(アーべ)
分散型レンディングサービスを展開するプラットフォーム。貸し手と借り手を直接マッチングするのではなく、あいだに資金をためておくプールを仲介させてマッチングする仕組みです。MATICの総供給量の1%(4000万ドル)がAaveのPolygon市場に割り当てられています。
Curve Finance(カーブ・ファイナンス)
ステーブルコインの取引を効率的に行うよう設計されたDEXです。ステーブルコインとは、価格の変動を少なくし、価格を安定させるために法定通貨や金(ゴールド)など別のクラスの資産と連動(ペッグ)させている暗号資産の総称で、USDCやDAIなどがあります。Curve Financeは2021年6月に、ビットコインのプールをPolygonに追加することを発表しました。
Polygon/MATICとNFT
近年世界中で取引が過熱しているNFTのマーケットプレイスやNFTゲームにおいても、処理速度が速く低コストなPolygonへの対応が進められています。ここにあげるのはその一例です。
HEXA(ヘキサ)
HEXAは、インフルエンサーが作品やツイートをNFT化してファンに販売することで、ファンとのつながりを深めることができる新しいサービスです。サービス開始当初、NFTの発行はイーサリアム上でしかできませんでしたが、その後Polygonブロックチェーン上でNFTを発行できる機能がリリースされました。
nanakusa
日本発のNFTマーケットプレイス「nanakusa」を展開するスマートアプリは、2021年2月よりPolygonとの提携を開始しました。
OpenSea
世界最大手のマーケットプレイスOpenSeaは、NFTブームのマイナス要因となっているイーサリアムのガス代高騰の問題を解消するため、複数のブロックチェーンへの対応を開始し、その中にPolygonも含まれています。
クリプトスペルズ
日本最大級のNFTゲーム「クリプトスペルズ」も、イーサリアムのガス代高騰の解決策としてPolygonへの対応をはじめました。国内のブロックチェーンゲームでは初のマルチチェーン対応となります。
PerfumeのNFTアート作品
日本のテクノポップユニットPerfumeのNFTアート作品が、2021年6月と8月にいずれもPolygonを基盤とするNFTマーケットプレイス「NFT-Experiment」にて販売されました。
その他
NFTと仮想現実(VR)を組み合わせたDecentralandやThe SandboxなどのメタバースなどもPolygonへの対応が進んでいます。
PolygonにおけるゲームやNFTの需要が増加していることを受けて、2021年7月、PolygonはブロックチェーンゲームとNFTに特化した「Polygon Studios」を新しくスタートさせました。Polygon Studiosは、Web2.0とWeb3.0(Web3.0とは従来のインターネットとは違う分散型インターネットであり、ブロックチェーン技術を活用した次世代のインターネット)の架け橋になることを目指しています。